STMG 古伝武術の世界|「氣」とは何か、「勁」とは何か
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古伝武術の世界

掴みかかっている侍二人は段々と汗まみれになっていき、ついには耐えられず書の途中で吹っ飛ばされるという事態になったのでした。対する桃井先生は汗ひとつかかずに無事に書を描き終え、藩主をはじめ唖然としている人々を背にこれまた何事もなかったかのように辞去の挨拶をして飄々と屋敷を出たのでした。

桃井先生は後年この時のことを多くは語らなかったそうです。ですが門弟の一人が質問した際に「書が剣と通ずるのは皆周知の事だが、心がその所作を型作る事を知る者は少ない。内外合一とはよく云ったもので、内心が全てを決するのである。」と仰ったという事です。

◆筆者の経験談

筆者の修業時代、先生と撃剣を行っても触れることすら出来ませんでした。何度も、どうやってもこちらの動きに対してあらかじめ分かっているかのように対処されてしまい、手も足も出ないのです。誠に不思議であって悔しくもありました。時にはフェイントのような事も行うのですが全くダメで、逆にこちらが予想もしない方向から打ち込まれてしまうという有様でした

堪りかねてついに先生にどうすれば良いのかを尋ねましたところ、「目で見て反応して頭で考えて身体を動かす、この手順ではいつまで経ってもスポーツと同じで反射神経の動きにしかならない。剣は心の働きによるものだよ。」というお答えでした。しかし、当時の私にはチンプンカンプンでなにをどうすれば良いのか見当もつきませんでした。長い間このことで悩み苦しんで沢山の試合に参加したり、勝負をしたりもしたのですが、一向に答えは見つかりませんでした。

「心の働き」というような事を先生からお聞きしましたので、こうなればもう禅寺にでも修行に行くしかないのかもしれないと落ち込んでいた時分のことです。いつものように道場で抜刀の型などをやっていますと突然全身に電気が走ったような感覚があり、この世の何もかもが混ざり合ったような、消えてしまったような現象(そう表現するしかないと思います)があり、一瞬で前に飛びながら同時に後ろを振り返り剣を向けていたのです。すると目の前を中国刀(後から分かりましたが勿論模擬刀です)が凄まじい勢いで斜めに流れていきました。先生が背後から中国刀で切りかかったのでした!

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