STMG 古伝武術の世界|「氣」とは何か、「勁」とは何か
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古伝武術の世界

「氣」とは何か

次に「氣」についてなのですが、この語も広範囲に及ぶものですから全てをお話しするのは困難です。東アジアでは普遍的に使われる言葉でもありますから、それこそ「政治」「経済」「社会生活」「人間関係」「宗教」等に至るまであらゆる分野に使われる便利な用語と化しています。氣という言葉が初めて人類史に出現するのはおそらく「国語」という古代中国の書物だと思われます。この書物は歴史書なのですが、この中に紀元前780年頃に起こった西周(現在の陝西省周辺)大地震の記述がありまして、この中に「夫天地之氣」という一文があり、これが史上初めて書物に顕れたものだと考えられています。

ですが、この国語に描かれた氣と、私達現代人が扱っている氣が同一のものを指しているかどうかについては実は確証がありません。要するに、古代からこの「氣」という概念が変化せず今に至るかどうかは誰にも分からないという事なのです。ですからそれぞれの立場から意味を限定せざるを得ないというお話にもなりますし、それどころか分野によっては全く違う意味でご都合主義的に”発明”された場合すらあり得るのです。

また、上述の各分野で使われている意味についても氣という言葉は同じですけれども、込められている意図が同じかどうかは実に不明瞭であって、同じ議論の俎上にすら載せられないという事でもあります。具体的に言いますと、政治学者と武術家とで「氣」についてお話したとしても全く噛み合わないだろうと言う事を示しています。それくらい誠に不思議な言葉なのです。以上をご考慮の上、ここではあくまでも武術での氣、それも当館での理解の範囲内のお話だということをご理解いただければと思います。

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